Lesson05-1 薬膳の基本 四気
基礎知識として「薬膳=食薬を用いた料理」ということを学びましたが、ここからはさらに詳しく学んで行きましょう。
四気とは
前のページで漢方の種類について紹介してきましたが、度々食材の性質について紹介させていただきました。その性質のことを『食性』といい、4つある『温』『熱』『寒』『涼』の総称を『四気』と呼びます。
ちなみに『温』『熱』は陽に属していて機能の活性化を、『寒』『涼』は陰に属して沈静化の効果を持っています。つまり二極化する陰陽論を少し細かくしたものが四気となります。
四気は四季にも関係してきて、気温が暖かくなって陽に当たる春から夏にかけては『寒』『涼』の食材が実り、逆に寒くなってくる秋から冬にかけては『温』『熱』の食材が旬となる物が多いです。周りの気温に対応して自ら熱を下げたり保ったりする性質が食材となっても現れるのです。
さらに、地域的な特色から見ても四気は関わってきます。寒い北海道では熱性を持っている羊を主役とした料理、ジンギスカンが有名で、年中暖かい気候が続く沖縄では寒涼性を持っているゴーヤーや豆腐を用いてゴーヤーチャンプルーを作ったりします。こういった地域の特色に合わせて作られた郷土料理も、地元の人の体を気遣って編み出されたと考えれば薬膳料理の一つとも考えられます。
ちなみにこの4つに特徴が当てはまらない物を『平』と称します。そして四気とこの『平』を合わせたものが『五性』です。
体に与える影響
四気の特性は体に入れてからも発揮されます。『温』『熱』の性質を持っていれば体を温めてくれますし、『寒』『涼』の性質を持っていれば体の熱を冷ましてくれます。なので寒気や下痢、舌にできるコケが白い場合は『温』『熱』の性質の食材を、ほてりや便秘、舌のコケが黄色い方は『寒』『涼』の食材を取ると体を正常へと導いてくれます。
だからといって『温』『熱』の食材だけ、『寒』『涼』の食材だけで調理するのは過剰摂取になってしまう可能性もあります。なのでバランスを考えて調理する必要が出てくるのです。
そしてそのバランスを取ることが薬膳の大切な部分となります。
前のページでも説明しましたが、薬膳は言ってみれば食べる人のためだけに作られるオーダーメイドの薬なのです。食べる人の体を気遣い、治療が必要な箇所にのみ効果を与えながらも他の臓器に余計な刺激を与えないことが理想系であり、やり方しだいでは可能なのです。
それと上記で少し説明した『平』についてですが、これは四気のような性能を持っていないのでどの食材と組み合わせても体に大きく影響しません。なので『温』『熱』『寒』『涼』のどれかに特化させようとしても『平』ならどこに入っても邪魔をしないので料理の幅が広がります。
Lesson05-2 薬膳の基本 五味
五味とは
これも漢方の種類で説明した時に扱ったものです。味を構成する『酸』『苦』『甘』『辛』『鹹(かん)(=塩味)』の5つの総称を『五味』と呼びます。これらは「味」なのでそれぞれに栄養や効能が多くあるわけではありませんが、漢方や薬膳には大きな要因の1つとなります。
五味の性質
「味」として体に反応されている以上、五味それぞれの作用も見られます。
『酸』では収斂(しゅうれん)作用、つまり引き締める力を強めることで過剰に出る汗や尿を抑えてくれます。イメージとしましては梅干を食べた時にすっぱくて口をすぼめる状態、あれが体の細部で行われているようなものです。
『苦』は清熱作用と瀉下(しゃげ)作用を持っており、体の熱を冷ましたり便の通りをよくしてくれます。代表的なものだと沖縄で親しまれているゴーヤーや利尿作用を持つ緑茶が挙げられます。
『甘』では補益作用と緩和作用が見られ、不足した気力の補充や痛みを和らげたりすることができます。はちみつやカボチャ、とうもろこしなど甘い物や体で糖分になる物が該当します。
『辛』は発散作用があり、巡りが悪く滞っている気や血の流れを正常にしてくれます。これはネギやショウガ、ニンニクなどの刺激物に多く見られます。
『鹹(=塩味)』では軟堅(なんけん)作用や潤下作用があり、凝り固まった筋肉を柔らかくしたり便通を良くしてくれます。塩味と言うこともあって、多くを占めるのは海産物です。
それぞれの味にそれぞれの作用が見られますが、今まで説明してきた食材と同様、ちゃんとバランスを取って摂取しないと体に異常が発生します。
もし過剰摂取した場合、『酸』は出口が堅く閉ざされて汗や便などの老廃物が溜まり、体の中で毒素を溜め続けることとなります。
『苦』では体を根本から冷やして冷え性になったり、便の通りが良すぎて必要な水分を吸収できず皮膚が乾燥してしまう場合もあります。
『甘』では補充した気、血、水が過剰摂取によって巡りが悪くなり、むくみや肥満となって体に現れてきます。
『辛』は巡りを良くし過ぎるせいで血が頭に上りやすくなって気性が荒くなったり、刺激物が多いので胃腸にダメージを与えます。
『鹹』は塩味と聞いて分かりやすく、塩分過多の症状としてむくみや動悸の乱れなどが現れます。
それと伝統的には元々分類されていたわけではないのですが、五味に分類されない味として『淡』というものもあります。ちなみにこの『淡』を合わせて『六味』とも呼びます。名前の通りはと麦や冬瓜といった淡白な味のものが分類され、内臓や表面に溜まった湿を取り除いて水の巡りを良くしてくれます。
Lesson05-3 薬膳の基本 帰経
帰経とは
今まで説明して来た食薬の効能で、それがどの内臓にどう作用するのか解説して来ました。そのように生薬や食材がどの様な反応を見せるのか示したものを『帰経(きけい)』と言います。また、この『帰経』は『五臓』での優先されるはたらきを中心に示しているので、『五臓』で表記して行きます。
なのでここで注意していただきたいのは、たとえ四気五味が同じでも帰経が違えば効能も変わってくると言うことです。
例としてどちらも「涼、酸・甘」の性質を持つ梨とりんごで比べてみましょう。梨は『肺』で作用するのに対し、りんごは『脾』で効果を発揮します。梨は『肺』の熱を冷まして喉の渇きや空咳を和らげ、りんごは『脾』の不調を改善して胃腸の働きを良くしてくれます。
五臓の働きと不調
以前五行説について学んだ時に五臓について大まかに説明しましたが、ここからはもう少し詳しく学びましょう。五臓には『肝』『心』『脾』『肺』『腎』の5つの要素があります。ですが、これはあくまで臓器の機能を系統的に捉えて当てはめたものなので、実際の臓器だけでなくその働きに関するもののことを指します。
それでは順に五臓それぞれの働きについて説明します。
『肝』は気の巡りを整え、体が支障なく動けるように機能のバランスを取ってくれます。さらに気だけでなく血のコントロールも担当しており、筋肉や神経の働きを調節したり血を貯蔵することも『肝』の役割です。このように気と血の循環を任されているので、いらなくなった物を外へと出す代謝や排泄機能といった生理現象もここで管理されています。もし不調が起こってしまいますと食欲衰退や便秘、他にも月経不順などの症状が現れます。
『心』では心臓がポンプの動きをすることで血の流れを管理しています。心臓は運動や緊張で心拍数が上がったり、逆にリラックスしていると落ち着いた働きをします。このように細胞が酸素を欲していたり、その時の思考に合った血流の働きを『心』がコントロールします。しかしその『心』のバランスが崩れてしまいますと少しのことで動悸が激しくなったり、感情が引っ張られて不安や不眠といった症状も出てきます。
『脾』は脾臓だけでなく胃腸も含めた消化器官を指します。なので食べ物の消化や吸収を行い、その栄養を体中に送る働きを持っています。他にも体の中央に位置することから内臓の維持や血の漏れを防いだりする保持の役割もあります。『脾』のバランスが崩れると胃もたれや吐き気、栄養や水分が十分に吸収できずに起こる下痢などの症状に見舞われます。
『肺』は呼吸によって新鮮な空気、つまり新しい「気」を取り入れます。また二酸化炭素として汚れた「気」を排出するだけでなく、体内の水分代謝も行ってくれます。『肺』に不調が起きますと呼吸器系の症状のみではなく、水分代謝の異状で皮膚の乾燥も起こります。
『腎』では両親から受け取った生命力を貯蓄して、それを成長や発育、生殖のエネルギーとして使って行きます。成長とは体全体のエネルギーを調整して行っているので、それに伴って全身の水分布や代謝も任されています。もしバランスが崩れてしまいますと、老化が早まったり不妊や頻尿といったトラブルが生じます。
Lesson06-1 薬膳の献立 主食
これまで漢方と薬膳について色々学んで来ましたが、「では実際どのような料理を作ればいいのか?」と疑問に思うかもしれません。なのでこのページでは基本的な薬膳の献立について学んで行きましょう。
ご飯とお粥
お米はアジア圏の多くで主食に当たる食材です。これをそのまま炊くのではなく食薬となる食材と一緒に炊いたり、先に中薬を煎じておいた薬汁を用いて炊いたりする方法などがあります。他にも食薬と一緒に作る薬膳粥や出来上がったご飯やお粥に後から混ぜるなど様々な方法で一緒に食べることが出来ます。
たとえば不安や不眠の時にはユリ根やクルミを用いた粥を、皮膚の痒みにははと麦と小豆を一緒に調理した粥など数種類の食材を用いて薬膳粥にすることもたくさんあります。
なお、一緒に炊く食材は熱が中まで通りやすい物や、長時間熱を与えても栄養が損なわれない物など考えて入れてください。物によってはそのままでも良かったり、細かく切ったりして下処理が必要な物もありますので色々工夫して試してみましょう。
先人の知恵を借りてレシピを模倣するも良し、自分で症状に合った食材を選んでアレンジするも良しとどの症状にも適応した料理が作れます。
麺類
麺類とありますが、これは穀物類の粉を使用した練り物の総称として扱っています。つまり小麦粉を使ったうどんや饅頭、シュウマイ、餃子、ケーキだけでなく、きな粉、そば粉、はと麦粉を用いたものでも同じ調理法で食薬を摂取することが可能です。
調理法は生地を作る際に粉末状の中薬を混ぜ合わせ、そのまま練り合わせる方法が一般的です。この時に注意していただきたいのは、中薬が多すぎると生地がまとまらず潰れ易くなってしまいますので、中薬を多用しないよう気をつけてください。
他には生地に必要な水を薬汁にして練り込んだり、うどんや蕎麦に使うつゆやあんかけに混ぜ合わせるなど方法はたくさんあります。出来上がった物の上にトッピングとして食薬を乗せることも可能です。
米の粉
最近日本でもよく目にするようになった米粉ですが、米粉単品では粘りが少なく扱いにくいので、生地を作る時には摩り下ろした山芋を入れるなどの工夫が必要になってきます。これも生地を作る際に食薬を混ぜ合わせたり、具材を後で一緒に調理することが一般的です。
もし料理が思いつかない場合、米粉についてはフォーを初めとしたベトナム料理が数多く存在しますので、そちらを参考に作ってみるといいでしょう。
Lesson06-2 薬膳の献立 副菜・スープ
副菜
薬膳料理の調理法は一般の料理とほとんど変わらないですが、季節や体質、体調、症状などの要素によって調理法が変わってきます。特に揚げ物や高温での焼き物、漬け物にすると食材の性能が変わりやすくなる上に、脾胃の運動機能にも影響が出ます。なので煮る、煮込む、炒める、蒸すなど温かい物や柔らかくした料理を勧めます。そうすることで消化に優しく、熱すぎず冷たすぎない料理は体内の臓器や細胞を無闇に刺激しません。
煮物
調理法はメインの食材と一緒に食薬を一緒に煮込んだり、あらかじめ煎じておいた薬汁で煮込む方法があります。メインの食材、火が通りにくい食材はあらかじめ切り口を入れたり炒めてから煮込んで、素材が柔らかくなった頃が完成です。
上記の状態でもいいのですが、もっと時間をかけて、さらに柔らかくなるまで煮込む調理法を燉(トン)と言います。
炒め物
食材を食薬と一緒に炒める方法が最も簡単でポピュラーな方法ですが、他にも中薬を煎じた薬汁に水溶き片栗粉を混ぜてあんかけにする方法もあります。この方法で調理して主食のご飯や麺にかけてもおいしくいただけますが、食材のバランスも変わってきますので1つのメニューと考えて食材を選ぶ必要があります。
蒸し物
この調理法も食薬を一緒に蒸す方法と、煎じた薬汁を水の代わりに蒸し上げる方法があります。基本的には食薬になるものとメインの食材を中心にして他の食材のバランスを取って材料を選びます。
スープ(湯)
食薬を煎じた物は薬膳茶として扱うこともできます。しかし煎じただけでなく他の食材と一緒に煮たり、食事の一品として扱う物はスープとして分類されます。調理法は副菜の煮込み料理とさほど変わりませんが、あちらはあくまで煮込んだ食材を楽しむ調理法です。メインになる物が食材かスープかで呼び方が変わってきます。
食材と中薬のスープ
最も簡単なスープの調理法は、食材と中薬をそのまま使用してスープを作る事です。あとは出汁や調味料、油などを使って味を調えます。
薬汁を使うスープ
あらかじめ煎じておいた薬汁を使ってスープを作る方法もあります。
ですが薬汁をこのまま使用すると味が濃くなったり効能が強すぎる場合もありますので、1度水で薄めてからスープを作ります。または出来上がった薬汁を濾して余分なものを取り除いて、スープに混ぜ合わせる方法もあります。
粉にしてスープに混ぜる
食薬の中には効能が強すぎたり味がスープに合わなかったりするものもあります。なのでそういった食材は粉末状にして出来上がったスープに少量振り掛ける方法があります。
Lesson06-3 薬膳の献立 薬酒・飲み物・デザート
薬酒
お酒は前のページで説明した通り、元も古い薬の原型です。お酒と中薬を混ぜ合わせる事で薬酒を作り出すことは薬膳学でも重要な役割を担っています。また、有効成分をよく出すためにはアルコール度数の高い酒を使う必要があります。ですが度数が高いので多量に飲んだり一気に摂取すると脾胃や肝臓に悪いので、適量で楽しみましょう。
飲み物
お茶は解毒作用がある事で中薬に属するだけでなく、種類によって症状に合った茶葉が選べるので飲み物としてもっともよく扱われています。
中でもお茶の色で分けられた6大茶類が最も広く知られています。
お茶の色が緑色の緑茶は清熱解毒の作用があり、黄金色か紅黄色の紅茶は体を温めます。青茶は茶葉が青緑色ですがお茶にすると金黄色や橙黄色になります。茶葉にうぶ毛が生えており、お茶の色が薄い白茶は清熱解暑の効果を持っていて暑さを和らげてくれます。逆に体を温める効果を持っている黒茶の特徴は茶葉が真っ黒か深褐緑色な濃い色をしている事です。黄茶はお茶の色が黄色で清熱作用を持っています。
また、茶葉からではなく食薬を煎じて淹れた薬茶、薬膳茶も古くから中国でよく飲まれています。しかし現代ではミキサーや果汁を絞り出す機械などが開発され、普通なら飲み物にしにくい野菜も簡単にジュースにできます。なので野菜ジュースにしても性質や効能は残るのでそのまま飲んだり、薬茶と混ぜ合わせる方法でも摂取することが可能です。
他にも朝食の飲み物としてあげられる牛乳や豆乳も、薬膳学の視点から見て有効な働きを持っています。この2つには滋陰作用があり、前のページで説明したように血と津液の補給を行ってくれます。寝ている間に寝汗をかいたり、体力の回復に水分が使われて起きた時には全身の水分が減っています。なので朝起きてコップ一杯の水を飲むだけでもいいですが、もっと効率よく水分を補給するなら牛乳や豆乳を勧めます。
デザート・点心
中国のデザートとして一般的なのは点心です。この点心では中の具材に食薬を入れて調理したり、生地に練り込んで蒸し上げる方法などもあります。この方法は主食の麺類で説明した内容も含まれ、小麦粉を使うケーキなどにも応用できます。またクルミや松の実などの食感がある木の実はトッピングとして使ったり、アクセントとしてクッキーなどに混ぜて焼く方法があります。他にも中に入れる食薬をそのままではなく餡やクリームと合わせて作るなど、多くの調理法があります。
Lesson07-1 薬膳料理の知識 基本知識
調理することは言ってみれば料理することの専門技術でもあります。なので中国ではこの技術を『烹調(ほうちょう)』と言います。『烹』は柔らかくなるまで煮込むこと、『調』は調和を意味しています。なのでこの2つを合わせた『烹調』は食材を加工して火を入れ、調味料で味を調えて体に合った料理を作ることを指します。薬膳はもちろん知識も大事ですが、それを有効活用する為の『烹調』の技術も必要となって来るのです。
『烹』のはたらき
最も多く使われている烹法は熱を入れる事です。これは強火や弱火といった火力だけでなく、土鍋などの内部で働く余熱も加わります。
なぜ火を使う調理法が増えたかというと、殺菌、消毒が大きな目的です。ほとんどの細菌や寄生虫は85℃の熱や高濃度の食塩水に耐えることが出来ず、消滅してしまいます。どんなに体に良いものだったとしても、体に害をもたらす物と一緒に食べてしまっては元も子もありません。
さらに火を入れる事で柔らかくなったりほぐれたりするので、消化しやすくなります。他にも香りが立ちやすくなったり、色艶を与えてくれたりして食欲を促進させてくれます。
『調』のはたらき
調は字から連想されるように、調味料で味を調節する役割を持っています。下処理として臭みを取ったり、味を確定させたり、お汁粉に少量の塩を入れるように逆の味を足すことで本来の味を際立たせたりするなど、多くの場所で使われます。
調味料は塩や砂糖と言ったそのままの素材もあれば、醤油やみそと言った加工品も加わってきます。さらに国毎に加工調味料は変わってきますし、香辛料も入れたら膨大な数になってしまいます。
ですが薬膳料理の基本は素材の味を活かすことなので、基本的な味付けは単純な塩味や薄味なものが多いです。と言っても、食材として扱ったトウガラシや山椒などの刺激が強い物やハチミツや砂糖などの甘い素材などが味の中心となるので、ここで多くの調味料を使ってしまっては味にまとまりがなくなってしまいます。なので邪魔をせず、うまくバランスがとれる塩が頻繁に使われるです。
調理器具
薬膳料理では土鍋や土缶、陶器を用いて調理します。何故これらが使われるかと言うと、土鍋などは保温性に優れているので余熱の調理も可能ですし、化学反応が起こりにくく食材の栄養素が保たれます。ここで少し注意していただきたいのは、高熱によって栄養が損なわれる食薬もあるので鉄の鍋を使った調理は注意して行う必要があります。
Lesson07-2 薬膳料理の知識 前菜・主菜
前のページで薬膳料理の調理法や献立について説明しました。ですがあれは一纏めにしたメニューなので、順番については何も教えていません。
最近よく聞く食べるダイエット法の1つに「野菜、食物繊維を先に食べる」という方法があります。これは先にビタミンなどを取る事で後から摂取するタンパク質や糖の過剰摂取を抑えようという働きを利用して行われています。日本料理は1膳としてたくさんのおかずが一緒に出てくることが多いので想像しづらいですが、これは元来コース料理などよく目にする前菜、主菜の関係なのです。
薬膳料理にもこの手法が使われ、前菜で脾胃の働きを促し、治療のメインとなる主菜を受け入れる状態を作っているのです。なのでここでは前菜と主菜に使われる主な烹調について学んでいきましょう。
前菜の場合
前菜の烹調には主に肉や魚、卵など火を通して調理し終わった物を1度冷ましてから和えたり、生野菜と茹で野菜を組み合わせたものなど多彩なバリエーションがあります。
調理法は煮る・茹でる・和える・煮凝り・漬ける・干すなど様々ありますが、基本的には柔らかく仕上げて消化にいい状態にしています。
『煮る』と『茹でる』で似た調理法が出ていますが、どちらも先に湯通しして中薬の煎じ汁や煮汁に入れる工程は同じです。ですが前者は下揚げや冷ました後に油を薄く塗ったりして色艶を良くしたりするのに対し、後者はそのままの状態で仕上げる形が多く見られます。
他の調理法も主役となる食薬を中心にして材料や調味料のバランスを整えて作りますが、干し物に関しては肉や魚に山椒塩を塗って吊るす方法が主流です。
主菜の場合
主菜は治癒のメインとなる食材を扱う事もあって多くの食材が存在し、それに比例して調理法も数多く存在します。それを大きく分けると4つに分類されます。
水を使う烹調
この調理法ではスープや煮物といった水分が多い料理で扱われます。煮汁と素材の味が分かり易く、柔らかく仕上げられるので薬膳料理に最も合う調理法です。
素材をそのまま煮る方法もありますが、下処理として1度炒めたり油通しをすることで中に火を通り易くしたり味を閉じ込めたりします。この方法で煮た後に水溶き片栗粉でとろみをつけさせる烹調を焼き煮込みと言います。ちなみにこの焼き煮込みは3種類あり、煮汁がなくなるまで煮る乾焼(カン・シャオ)、肉や魚がメインの時に醤油や赤色の調味料で味を付ける紅焼(ホン・シャオ)、野菜が中心で塩で味を調える白焼(パイ・シャオ)に分かれます。
油を使う烹調
火力や油、中華鍋で有名な中華料理ですが、同じ国から発展した事もあって薬膳料理でも多く扱われています。
まず『炒(チャオ)』の烹調について説明します。これは読んで字のごとく、油を熱して素材を炒める方法です。先にネギやショウガを炒めて香りを放ち、その後に油通し、またはそのままの状態で用意した素材と調味料を一緒に炒めます。チンジャオロースが有名な例です。
次に『爆(バオ)』についてです。これは基本的に『炒』と方法は同じですが、より高温で、より手早く調理する方法をこう呼びます。これは動物性タンパク質を扱う際に使われる烹調です。
他にも少量の油で表面を焼く揚げ焼きに似た調理法の『煎(ジェン)』と、揚げ物や炒め物を他の煮汁やあんに加える方法の『烹(ポウン)』があります。
蒸気・熱気を使う烹調
水や薬汁で蒸す方法も、オーブンや窯で焼き上げる方法のどちらも栄養をそのまま取れて食材が柔らかくなっているので、薬膳料理に適しています。
塩を使う烹調
塩を用いた調理法、塩釜焼きは薬膳料理にも取り組まれています。外部に栄養を漏らさず、なおかつ塩釜の余熱で味を染み込ませる方法は素材の味を際立たせてくれます。
Lesson08 『養生』の暮らし
養生とは?
『養生』とは漢方学の1つで、『養って生きる』という文字から連想できるように生命力を養いながら生きることを指します。つまり養生とは日々の生活を整え、生命力を高めることで病気にかからない体を作っていくライフスタイルなのです。
漢方学での基本理念として『生命力=自然治癒力』という関係性があり、病気にかからない事はもちろん、日々の生活を健やかに過ごすこと、前向きな考えを持って健康になろうという姿勢が理想形となっています。
しかし実際、人間生きていれば良いこともあれば悪いこともあるのが人生です。なのでもし病気や精神の疲れなどで体調に陰りが見えたとしても、それを元の方向へと戻す為の準備が必要となってきます。つまり日々コツコツと健康に気遣う事で大病を免れるようにすることが大事になります。
『養生』を心掛けた結果、良い部分はさらに伸ばし、悪い部分は改善して引き上げて行くことで高水準の体を作り上げることが出来ます。
養生の原則
ここで1つ、理解していただきたいのは『養生』を行う上で人間も自然の1部であるということです。
人間は文明が発達したことで夜間の作業が可能になったり、食材の飽和によって過食が行われたりしています。ですが本来人間も自然の中で生きる生物であり、生活リズムも動物たちとさほど変わりません。
なので『養生』を行う前提条件として朝起きて夜寝る、自然のリズムに逆らって生活することは禁ずる形となります。とは言っても仕事や付き合いなどで思うように過ごすことは出来ないかもしれませんが、可能な日は早寝早起きを心掛けて生活のリズムを整えましょう。
このように自然と調和して過ごすことをクリアすると、次に重要となって来るのは土地や気候といった環境です。前のページ、Lesson3で説明した「陰陽論」や「五行説」は自然にも関係してきて、それと同時に人間の体にも影響を与えて来ます。暑さや寒さで体に直接的な影響を与え、その結果体に異常をもたらせます。
普段『養生』を心掛けた生活をしていれば健康に過ごすことが出来ます。ですが不摂生な生活をしていれば夏や冬といった陰と陽に傾いた季節で体調を崩す可能性が高いです。
他にも暑い夏から冷えてくる秋にかけて喉が痛くなったり、冬に行っていた体を温める方法が春になっても抜けず多汗による脱水症状なども不摂生による結果です。
こういった事態を避けるために、自然にあった生活を送ると同時に季節に合わせた過ごし方も考慮する必要があります。
なお、季節の養生についてはLesson14で詳しく説明しますので、そちらを参考にしてください。
養生への心がけ
ここまで『養生』について学んできましたが、最も重要になって来るのは心と体の健康を気遣う事です。『病は気から』という言葉があるように、気が滅入ればそれに引きずられるように体も滅入ってきます。そしてその逆も然りな事態が起こります。
つまり健やかな心と、健全な体を併せ持つことで『養生』が成り立つのです。
Lesson09-1 季節に合った薬膳料理 春
前のページで養生について説明しましたが、「ならばどのような食事が体にいいのか?」と疑問に思うでしょう。なのでここのレッスンでは季節に合った料理を数点紹介しましょう。
注意していただきたいのはここで紹介した薬膳は1つの例ということです。他にも旬の食材を活かした薬膳はたくさんありますので、今後独学で薬膳を勉強する際には他のメニューの研究も大切になってきます。
多くの食材を駆使して、バランスの良い薬膳を作っていきましょう。
春カゼの特徴
春の季節は気温が暖かくなることで胃腸の働きが良くなってきますが、体全体のバランスが保てず逆に上半身を傷めやすくなります。発熱や咳、くしゃみ、のどの痛み、めまい、頭痛などといった頭部や上半身で起こる症状が見られます。
1年の始まりである春に風邪を引いてしまうと、のちにバランスを取る事も難しく、1年中風邪をぶり返してしまう可能性も出て来ます。逆に言えば、春を健康に過ごすと『養生』を行う限り風邪を引かないという事です。
この時期に注意することは頭痛やくしゃみといった特定の決まった症状がない風邪が流行ると同時に、インフルエンザのような伝染病も流行り易いという事です。軽い症状の時に前者だと勘違いして放っておくと、もし後者だった場合取り返しがつかないことが起こるかもしれません。なので引き始めだからと高をくくらず、ちゃんと療養する事を勧めます。
また冬と夏の間に位置するので春分より前の時期には辛温解表を、春分の後には辛涼解表の性質を持った食事を取った方がより効率的です。前者で有名なのがショウガで、後者は菊の花が挙げられます。では次に、それらの食材を使った薬膳茶について紹介します。
生姜紫蘇茶
この生姜を使ったお茶は春分前に飲み、汗をかくことで体を温めて肺と脾の活動を整えてくれます。
用意する材料は皮付きのショウガが3グラム、大葉1グラム、黒砂糖少々です。
①まずはショウガと大葉をみじん切りにし、容器に全ての材料を入れます。
②お湯を入れて5分ほど蒸らせば完成です。温かいうちに飲むことでより体を温めることが出来ます。
菊花薄荷茶
こちらは春分後に飲む辛涼解表の特性を持っています。
材料は菊花6グラム、薄荷2グラム、生甘草(なまかんぞう)3グラムになります。
①まず甘草を水と一緒に土瓶に入れ、15分煎じます。
②その後に菊花と薄荷も加えて煎じ、沸騰したら火を止めて蓋をしたまま5分間蒸らします。
③飲む際には茶葉を濾して飲みますが、茶葉はこの後も再利用できるので味がなくなるまで楽しむことが出来ます。
また、生甘草についてよく知らない方も多いかもしれません。生甘草自体の性質は平・甘なので、菊花や薄荷の成分を取るためなら性質と帰経の近い砂糖などで味を調える事も可能です。しかしこの場合はお茶としての効能はほぼないので、菊花と薄荷を煎じた飲み物、という形になります。
Lesson09-2 季節に合った薬膳料理 夏
梅雨風邪の特徴
日本の6月、初夏の時期に見られる梅雨は湿気、気圧の低下によって体調を崩す方がいます。『湿』の節気を持った邪は重濁性を持っており、気を濁らせて気だるさなどの不快感を長く与えます。
これによって治癒に時間がかかってしまい、下痢や湿疹、おりものなど、つい気が滅入ってしまう症状が現れてきます。こうなると新しく栄養を受け入れる食事もままならず、脾胃を傷めて吐き気や嘔吐の症状まで発症しかねません。
こういった場合を払拭する為には溜まった熱と一緒に湿気を吹き飛ばす清熱燥湿(せいねつそうしつ)、香りで湿気を紛らわせる芳香化湿、気を巡らせて湿邪を留まらせない行気燥湿(こうきそうしつ)の性質を持った食事をお勧めします。
いんげんとうどの炒め煮
いんげんによる健脾化湿、うどの祛風徐湿の働きを利用した梅雨の湿邪を吹き飛ばすレシピについて説明します。
まず用意する材料はいんげん3本、ウド1/2本、ミカンの皮1/2固分、皮付きのショウガ薄切り3枚、ネギ5㎝、塩、コショウ、サラダ油になります。いんげんは一口大に、ウドとネギは薄切り、ミカンはみじん切りにします。
①鍋でサラダ油を温め、生姜とネギを炒めて香りを立たせます。
②それにいんげんも加えて炒め、少量の水も加えて柔らかくなるまで煮詰めます。
③あとは他の材料も加えて炒め、塩コショウで味を調節しながら煮込んで完成です。
夏風邪の特徴
夏の季節は気温が上がる事によって、症状も体の熱が上がって起こる物が主になってきます。体の熱が上昇して汗やツバなどの水分が失われていき、津液だけでなく血液に必要な水分まで発散してしまう可能性が出て来ます。
なので熱を払う清熱解暑や津液を補充して渇きをなくす生津止渇(しょうしんしかつ)の立法が有効です。主に夏野菜やスイカやリンゴ、キウイなどの果汁が多く含まれる果物がこれらに当てはまります。中でもスイカの皮を適当に切ってミキサーにかけた『スイカの皮ジュース』は簡単に清熱解暑の効果を得られます。
とうがんのスープ
予防には上記のような食材を使って体の熱を発散するのが良いですが、もし夏風邪を引いてしまった場合には無闇に体を冷やしてはいけません。こういった場合の為に、今回は温かいメニューの紹介をしていきます。
用意する材料はとうがん200g、豆腐1/2丁、わかめ適量、塩、酢、ごま油です。
①まずはとうがんと豆腐を一口大に切り分け、わかめも適当な大きさにしておいてください。
②あとは水1000ccに先程の材料を入れて火をかけ、塩、酢、ごま油で味を調えて完成です。
このスープには清熱解暑の作用だけでなく、利尿の作用も含まれているので風邪で体内に溜まった邪気を吐き出してくれる効果もあります。
Lesson09-3 季節に合った薬膳料理 秋
秋風邪の特徴
暑さと湿気を払拭してくれる乾いた風が秋の訪れではあるのですが、この乾いた空気によって『燥』の性質を持った邪気も運ばれてきます。秋にかかる風邪は夏の暑さから一転し、涼しくなることで気温の変化に体が驚きその隙をついて邪気が入ってきます。
それと秋も春と同様、秋分前と後で食薬を使い分ける必要があります。夏の暑さが残る秋分前には温燥、冬に差し掛かる秋分後では涼燥の気候を持っています。なので時期や天気などを考慮して、体の熱を発散する物、温める物を選択していきましょう。
暑さによって水分を消費する夏とは違い、秋は乾燥することによって体の水分を失っていきます。たとえば鼻やのどの渇きが見られ、髪や皮膚が乾燥すると艶がなくなったりして体の表面にも影響が出て来ます。また体内の乾燥が進むと腸内での便の通りが悪くなり、便秘になる可能性も出て来ます。
五臓の中で最も潤いを必要としているのは『肺』です。なので空気が乾燥する秋は肺にとってとても相性が悪い季節なのです。体が弱っていくと口や鼻の呼吸器や気管が乾燥のしすぎで細胞同士のつながりが弱くなり、裂けて出血してしまう場合もあります。
そういった症状を抑えるために陰液の補充と肺を潤してくれる滋陰潤肺(じいんじゅんぱい)と、津液を増やすことで胃腸の働きを手助けする益胃生津(えきいしょうしん)の両方を持った食材が適材です。例を出すと柿や梨といった秋が旬の果物や、のどの乾燥に良いと言われているハチミツが挙げられます。
桑梨デザート
この料理では桑葉10g、梨1/2個、百合根1/2個、杏仁10g、ハチミツが材料になります。桑葉は疎風清熱、梨と百合根は滋陰清熱潤肺、杏仁とハチミツは潤肺止咳の効果を持っており、肺熱を治めてくれます。
①まず桑葉を500ccの水に入れ、15分間煎じます。
②煎じている時間を利用して梨を一口大に切り分け、百合根は1枚ずつはがしてきれいに洗っておきます。
③これらの準備が終われば材料を器に入れ、濾した薬汁を注ぎ込みます。
④最後に20分蒸して冷やせば完成です。
白キクラゲと豆腐のサラダ
この料理は体を潤してくれるだけでなく、秋風邪の乾燥によって起こる空咳や皮膚の熱感の治療にも役立ってくれます。
用意する材料は豆腐1丁、きゅうり1本、きんかん6個(ミカンの皮でも代用可能)、白キクラゲ6g、白ごま、サラダ油、塩です。下準備として白キクラゲは湯通し、豆腐は水切りしておいてください。
①このサラダでは2種類のドレッシングを作ります。1つはきゅうりをミキサーにかけて塩で味を調えた簡単な物です。
②もう1つは種を取ったきんかんをミキサーにかけ、炒ったすりごま、サラダ油、塩を加えた物です。
③適当な大きさにそろえた豆腐と白キクラゲを皿に盛り、白キクラゲにはきゅうりの、豆腐にはきんかんのドレッシングをかけて完成です。
Lesson09-4 季節に合った薬膳料理 冬
冬風邪の特徴
冬は気温が下がり寒さによる邪気、寒邪が体を襲います。『寒』は陰に属しており、体内に入ると体を保護している陽の気を傷つけて症状を出します。よく見られる症状は悪寒や冷え、下痢などが挙げられます。
寒くなると体が縮こまって動きたくなくなるように、体内の血も同じように活動が鈍くなります。寒邪が持つ凝滞性と吸引性が気血の循環の阻害し、瘀血にしてしまいます。こうなってしまいますと血が十分に行き渡らない事で頭痛や節々の痛み、胃痛などの症状が現れます。
このような事態が起こったにもかかわらずそのまま放置しておくと症状が悪化し、高血圧や脳血管疾患、心疾患、気管支炎などの発病が高くなってきます。
こんな時は辛い物で体を暖かくして体の表面に溜まった邪気を払う辛温解表や、単純に体を温めて寒さを吹き飛ばす温経散寒などが役に立ちます。
大葉粥
こちらの料理で使用する材料は米80g、大葉3枚、ショウガ薄切り3枚、塩、コショウです。
この時期に効く最も簡単な薬膳料理は、この大葉粥だと考えます。なぜなら普通のおかゆの上に千切りにした大葉とショウガを乗せて2~3分蒸らし、塩コショウで味を調えるだけで出来上がるのです。
簡単ではありますがちゃんと漢方としての効能はあります。大葉とショウガは『辛・温』の性能を持っており、発汗解表や温肺止咳の作用をもたらします。これらは上記で説明した辛温解表に当たります。
またお粥にすることで消化に優しく、炭水化物を取る事で熱エネルギーとなる糖を摂取できます。
鶏肉黄酒粥
こちらは先程の大葉粥より多少手を凝りますが、その分比例して効果も増えます。
用意する材料は米80g、鶏ガラ1/2羽分、紹興酒大さじ1杯、ショウガ10g、ネギ10g、香草1株、しょうゆ、塩、コショウです。
①まずは香りのネギとショウガをぶつ切りに、香草をみじん切りにします。
②次に1000ccの水に鶏ガラ、ショウガ、ネギ、しょうゆを入れてスープを作ります。
③最初は強火で温め、沸騰したら弱火にして30分コトコトと煮込みます。
④これを濾せばお粥に使うスープの完成です。
⑤あとはこのスープでお粥を作り、出来上がる前に紹興酒を入れて余熱で2~3分蒸らします。
⑥最後に塩コショウ、香草で味を調えて出来上がりです。
鶏肉には補脾益気の効果があるので脾と陽の気を活性化させ、大葉粥でも説明した『辛・温』の効能を持つショウガ、ネギ、香草、酒も合わさって『気虚』の対策に役立ってくれます。これらの要素を全て合わせたこの料理の正確な効能は『温陽補気散寒』という言葉になります。
Lesson10-1 五臓に働く薬膳料理 肝
『肝』の特徴
肝は体の中で最も血液が集中している臓器です。そのため血液の量を調節することによって感情のコントロールや気の巡りを好調にしてくれる重要な役割を持っています。
この血を溜める行為を『蔵血(ぞうけつ)』といい、気の巡りをスムーズにして体の調子を整えることを『疏泄(そせつ)』と言います。女性の場合ですと疏泄の働きに月経を正常に保たせることも含まれてきます。
肝の調子をよくするには肝気を発散、上昇させて肝血を養う事が求められます。それに合う性味は辛味で、適度な酸味、甘味を組み合わせたもので、さらに温性の食材や中薬だとなお良いです。
みかんと蓮子のサラダ
肝気を疏泄させる働きを持つ薬膳茶は「ジャスミンとウーロン茶」や「薄荷と菊花」の組み合わせなどがありますが、今回は薬膳料理を紹介させていただきます。
用意する材料はみかん1個、蓮子(蓮の実)15g、きゅうり1/3本、ハチミツ、塩、白コショウ、マヨネーズ、酢になります。
①まずは蓮子を湯に入れて柔らかくなるまで煮ます。
②その途中でハチミツと塩を入れて汁がなくなるまで煮込みましょう。
③その間にみかんの外皮と内皮、種をとっておき、きゅうりを輪切りにしておきます。
④マヨネーズ、塩、白コショウ、酢を混ぜ合わせてタレを作り、他の材料と和えれば完成です。
みかんの行気と蓮子の健脾によって肝脾の働きをよくする行気健脾の効果があります。
四紅湯
こちらは肝血を養うための薬膳料理です。
材料はにんじん1/2本、落花生20g、大棗(タイソウ、なつめ)10個、枸杞子(クコの実)10g、黒砂糖を用意してください。ちなみにクコの実は杏仁豆腐のトッピングなどで使われる赤い実のことです。
にんじんは火が通り易い切り方であればどのように切っても大丈夫です。なのでここでは見た目も華やかになる花形で紹介していきます。
①こちらの調理法は簡単で、まず鍋に800ccの水を加えて落花生と大棗を一緒に20分間茹でて行きます。
②そこから切っておいたにんじんとクコの実も加えてさらに煮て行きます。
③落花生が柔らかくなって黒砂糖で味を調えたら完成です。
これらの食材にはそれぞれの役割があり、にんじんと落花生は補血、クコの実は滋補肝血、大棗は益気養血の効果を持っています。これらがすべて組み合わさって肝血を養うだけでなく、目の疲れや視力の低下を癒してくれます。
ハマグリの蒸し物
もう1つ肝血を養う薬膳料理を紹介します。
こちらの料理ではハマグリ10個、枸杞子(クコの実)6g、菊花6g、ネギ3㎝、薄切りショウガ3枚、ニンニク1かけ、塩、紹興酒、オリーブ油が必要となってきます。
①こちらの調理も簡単です。まず下準備としてハマグリをきれいに洗い、ネギとショウガ、ニンニクの薬味はみじん切りにします。
②後は全ての食材を容器に入れて蒸し鍋にし、蒸気が出てさらに10分ほど蒸せば完成です。
この料理は滋陰清肝の効能を持っており、肝の悪化によって起こる頭痛や耳鳴り、発熱の症状を治めてくれます。
Lesson10-2 五臓に働く薬膳料理 心
『心』の特徴
心は知っての通り血液の流れを管理しており、精神的な動きもこの心に関わってきます。それと注意していただきたいのが心は心臓だけでなく、血液が流れる血管も含めた意味になっています。なので心気は全身に張り巡らされた血管、血脈にもエネルギーを注ぎ込みます。
なお心は上記で説明した通り、心気で心の活動を維持、血流の管理、精神の安定と多方面にわたる働きを見せています。つまり薬膳もその時の特徴に合わせてメニューを変える必要があります。
冷やそうめん
まずは心気を丈夫にする薬膳から紹介していきます。タイトルから分かるように、この料理はそうめんをメインにした料理です。
材料はそうめん80g、セロリ1/3本、ラディッシュ2個、ゴマ味噌大さじ3杯、塩、しょうゆ、酢、オリーブオイルを用意します。
①まずはセロリとラディッシュを千切りにします。
②それからゴマ味噌としょうゆ、酢、水を混ぜ合わせてタレを作ります。
③そうめんは茹でた後に水で締め、しっかりと水切りした後オリーブオイルと和えます。
④あとは盛り付けする際にそうめんに材料、タレを乗せる形でもいいですし、全て一緒に混ぜてしまうのも大丈夫です。
この料理は清心瀉火の効果を持っており、そうめんとセロリ、ラディッシュの涼性によって心熱を清めてくれます。
チンゲン菜の炒め物
今回は血液の流れをよくするための薬膳料理です。
用意する材料はチンゲン菜2束、生シイタケ3個、薄切りショウガ3枚、唐辛子少々、紅花油、紹興酒大さじ1杯、塩、ごま油です。
①チンゲン菜は一口大に、シイタケは薄切りに切り分けます。
②先に紅花油をフライパンで熱し、ショウガと唐辛子を炒めて香りを立たせます。
③その後にシイタケとチンゲン菜も加えます。
④最後に紹興酒とごま油を加えて完成です。
チンゲン菜には清熱活血化瘀の効果を持っているので瘀血を解消してくれます。その代わりチンゲン菜には涼性があるのでショウガと唐辛子を配合して性質を平に近付けます。
トマトと卵の炒め物
最後は精神を安定させる作用に効果的な薬膳料理です。
材料はトマト2個、卵2個、キクラゲ3g、ネギ少々、サラダ油、塩になります。
①まずはキクラゲを水で戻して一口大に整え、ネギはみじん切りに、トマトはくし形に切っておきます。
②次にボウルに卵を割り入れ、塩と一緒に混ぜます。
③熱したフライパンにサラダ油を引いて溶いた卵を炒め、炒め終わったら1度取り出します。
④ここで残っていたネギ、キクラゲ、トマトを炒め、塩を振って水気を飛ばします。
⑤最後に再び卵を戻して炒めれば完成です。
この料理は卵が持っている滋陰養血を用いて陰の気と血を養って心の安定性を図ります。そして赤色の食べ物が心経に入り易い特性を持っているので、その役目をトマトが担ってくれます。卵で心陰を養い、トマトの微寒性で熱を清める働きから、この料理は滋陰清熱の効果を持っています。
Lesson10-3 五臓に働く薬膳料理 脾
『脾』の働き
脾は脾臓、胃、腸などの消化器官全てのことを指します。つまり脾の働きによって食べた物が栄養へと変わり、全身へと送られます。消化不良や栄養不足の原因はここから始まる事が多いです。
中医学も西洋医学と同様、脾胃の働きが体の栄養に大きく関わると考えられています。ですが中医学の場合、それだけでなくもっと広い意味で把握されています。
それは『食べ物の消化と吸収』、『栄養に変換して各臓腑へと送り出す』、『筋肉や四肢にも送って動きをコントロールする』、『水の代謝(分布、吸収、再利用)を担う』、『血液の循環もコントロールする』、『栄養を摂取した物の排泄』と、これだけの意味を持っています。口は脾胃の入り口とも言われ、食欲があるかどうかなどの症状がみられる場所なので脾胃の状況を判断するのに大きな役割を持っています。
「お腹を下す」「腹を冷やす」など脾胃の調子が悪い時に使う言葉があるように、脾胃は温かい環境を好みます。つまり脾胃を癒す食材の性質は温性がよく、体の働きを促してくれる甘味もあればさらに良いです。
鶏肉粥
この料理は脾胃の気を養う効果を持っています。
材料は米80g、鶏ガラ1/2本、ネギ5㎝、薄切りショウガ3枚、大葉2枚、しょうゆ大さじ1杯、紹興酒大さじ1杯、胡椒です。
①水800ccに鶏ガラ、ネギ、ショウガ、紹興酒を加えて20分間煮込みます。
②ここで鶏ガラを取り除きますが、肉が付いている物ならその肉をそぎ落とします。
③このスープを使ってお粥を作り、取っておいた鶏肉としょうゆ、コショウを混ぜ込みます。
④最後に千切りした大葉を散らして完成です。
お粥は温かく消化に優しいので脾胃に良い効果をもたらします。さらに鶏肉の補気健脾と、大葉と胡椒の辛温の性能で消化機能を高めてくれます。
ウドと牛肉の炒め煮
この料理は上記のお粥が気を滋養するのに対し、気の巡りを促進させることによって消化機能の働きを活性化させます。
用意する材料はウド1/2本、牛肉150g、薄切りショウガ5枚、ネギ10㎝、紹興酒大さじ1杯、しょうゆ大さじ1杯、片栗粉、コショウ、塩、サラダ油になります。
①ウド、ショウガ、ネギを千切りにします。
②牛肉は細切りにして紹興酒、しょうゆ、片栗粉、コショウで下味をつけておきます。
③次は炒める作業に入るのですが、先に牛肉とネギを炒めて1度取り出します。
④フライパンを再び熱してウドを炒め、牛肉とネギ、ショウガも加えて炒めます。
⑤最後に塩で味を調えれば完成です。
気を巡らせて邪気を払う行気散風の効果を持ったウドと、脾胃の気を養う補脾益気の働きを持つ牛肉がこの料理の中心となります。さらにネギ、ショウガ、コショウ、紹興酒を合わせる事で消化を促進させます。
Lesson10-4 五臓に働く薬膳料理 肺
『肺』の特徴
肺は五臓の中で最もデリケートな要素であり、空気の循環が目的の鼻が直接関係する部分です。呼吸機能をつかさどる事もあって空気の状況に影響されやすく、特に空気が乾燥しやすい秋や冬に症状が現れます。
『肺』は呼吸で取り入れた空気を気に変換して、五臓六腑に新鮮な気を送り全身の潤いを保たせてくれます。なので乾燥した空気を取り入れると『肺』も乾燥し、全身の潤いを保つことが不可能となってきます。このことから『肺』は乾燥を嫌い、潤いを好む性質があると言われています。
気を付ける時期は乾燥しやすい冬よりも、季節の変わり目である秋の方がより考慮する必要があります。夏の後半から秋にかけては『温燥』、晩秋から冬にかけては『涼燥』と気候が変わるのでそれに合わせた薬膳を作る必要があります。
百合根とバナナの牛乳煮
こちらは肺を潤す作用を持っている料理であると同時に、百合根の微寒性とバナナの寒性が秋上旬の熱を冷ましてくれます。
用意する材料は百合根1個、バナナ1本、牛乳500cc、ハチミツです。
①まず百合根をきれいに洗い、黒い部分を取り除いて食べられる状態にしておきます。
②バナナも小さく切りそろえます。
③後は鍋に牛乳、百合根、バナナを入れて10分間煮て、最後にハチミツを加えれば完成です。
上記で説明した効果を持ち、陰性の気を養う効果も持っているのでこの料理の性能は滋陰清熱潤肺です。
八宝飯
こちらは肺気を養う薬膳で、この効果を持たせるには温性、甘味の物を使用します。
材料はもち米100g、山芋15g、松の実20g、大棗(タイソウ、なつめ)6個、クルミ15g、あずき餡適量、干しブドウ12g、ハチミツ、サラダ油になります。
①まず下準備として山芋の皮をむいてさいの目に切り、大棗は種を取っておきます。
②もち米も炊き上がったらサラダ油を振り掛けて混ぜます。
③耐熱容器に干しブドウ、もち米、あずき餡、山芋、大棗、クルミ、松の実、もう1度もち米の順に重ねていき、しっかりと押し付けます。
④それを蒸し器に入れて15分間蒸し、皿に取り出します。
⑤最後にハチミツをかければ完成です。
こちらはもち米と実が温性を持っているので、肺の気を補うだけでなく晩秋の寒さも払ってくれます。この効能を補気温肺と言います。
大根と昆布のサラダ
肺の熱を清める物は寒性、涼性を持った食材が選択され、肺熱が原因の咳や黄痰、のどの渇きを改善してくれます。この料理もその1つです。
材料は大根5㎝、生昆布30g、塩小さじ1.5杯、ごま油小さじ2杯になります。
①作り方は簡単で、大根と昆布を千切りにします。
②後は材料と調味料を全て混ぜ合わせれば完成です。
この料理は先程説明した効果が適応され、清肺化痰の効果を持っています。
Lesson10-5 五臓に働く薬膳料理 腎
『腎』の特徴
腎は腰に位置しており、中医学において五臓の中で最も重要な臓器だと考えられています。腎の主な働きは『精』に関わっていることにあります。これは生まれた時に両親から受け取った精を腎に貯蔵しており、体の成長や健康の為に精が使われていきます。つまりこの腎が体の今後に大きくかかわるので『先天の体』とも呼ばれています。ちなみに腎は精を使うだけでなく新しく補給することも出来ます。
『腎精』から『腎陰』『腎陽』の2種類が生まれ、これが五臓六腑の陰陽の素となります。
『腎陰』は体の成長や性機能の発達、骨の丈夫さ、記憶力、聴力、老化などの作用に働き、『腎陽』は呼吸の安定や水の代謝、尿や便の生成と排泄などに使われます。
もし腎が弱くなると成長や発育が不安定になったり、記憶力の低下や生理不順、呼吸などの生理作用が崩れたりなど、体を支える基盤が崩壊してしまいます。
腎は五行説の視点から見ると水に属していて冬に活動的になります。ですが、過剰に働き過ぎてしまうので腎は冷えやすい臓器なのです。この場合『腎陰』の方に重心が傾いているので『腎陽』の働きを促すために温性や熱性、辛味、甘味などの食材を取る必要があります。だからと言って過剰摂取してしまうと逆に『腎陰』の働きが遅れてしまうので、バランスよく取り入れることが大事です。
エビとニラの炒め物
まずは腎陽を温めるための薬膳について紹介します。
用意する材料はエビ5尾、ニラ1束、クルミ20g、薄切りショウガ5枚、紹興酒小さじ2杯、塩、片栗粉、コショウ、サラダ油になります。
①エビは背ワタを取り、塩、コショウ、紹興酒、片栗粉をまぶして下味をつけます。
②熱したフライパンにサラダ油を入れてエビを炒め、取り出します。
③クルミは乾煎り、ニラは2㎝に揃えて切り、ショウガは千切りにしてそれぞれの処理を行います。
④後は材料を全て炒め、塩で味を調えれば完成です。
エビ、ニラ、クルミはそれぞれ温性と甘味を持っているので、一緒に摂取することでより腎陽を温めてくれます。またこれらの食材は腎だけでなく腸にも作用するので、効果は温腸補腎と言います。
黒豆紅花ゼリー
こちらの料理は腎陰を養う効果を持っています。
材料は茹でた黒豆150g、紅花1g、ゼラチン10gと少ない量で済みます。
①まずゼラチンを水に入れてふやかしておきます。
②その間に黒豆と紅花を500ccの水に入れて10分間茹で、ゼラチンを入れて溶かします。なおこの時、材料の位置が偏らない様によく混ぜてください。
③よく混ざったら容器に移し、冷やして固めれば出来上がりです。
黒豆は滋陰の効果があり、冷やして食べるゼリーなので同様に腎も冷やしてくれます。