Lesson11 予防への考え方
中医学による予防の概念
今まで説明した通り、中医学において予防は治療よりも重要な役割を持っていると考えられています。症状が出てから対処するよりも、症状を未然に防いで健康的な生活を送る方が本来の在り方だと認識しているのです。
このような考え方はこのカリキュラムで説明した漢方・薬膳に加え呼吸法や鍼灸、按摩術などの治療法だけに関わらず、中国武術の功夫(カンフー:鍛錬、訓練)にも応用され、古代中国から現代まで発展してきました。
予防はこのような手段を用いて『体質の強化』『健康の維持』『寿命の延長』『疾病の防止』などの効果を体に与えます。
漢方の基礎となっている『黄帝内経・素問』の第一章『上古天真論(じょうこてんしんろん)』に記載されている黄帝の最初の質問は、「100歳を超えても元気でいられる秘訣」についてです。
続く第二章『四気調神大論(しきちょうしんたいろん)』でも病気にならないうちに予防する『治未病(ちみびょう)』の理念について語られています。つまり中医学とは、最も早く予防学に注目した医学だと言えます。
中医学において予防は2種類の意味を持っており、「症状が出る前に防ぐこと」と「発病や治療後の二次発生を防ぐこと」に分かれます。
疾病の予防
これから発病する前の予防について説明していきます。簡単に説明しますと、病気は体の中の正気が外から来た邪気に負けてしまって起こった結果だと考えられています。なのでこの場合、邪気にも負けない生気を作り上げることが『予防』となります。
自然に順応する
こちらは養生の基本でもある生活を送る事になります。朝は起きて夜は寝る、衣食住を揃えてバランスの良い食事をとる、季節に合わせた生活を送るなど規則正しい生活を送る事で自然と予防を行う事ができます。
精神を保養する
ネガティブな思考や情緒の不安定は臓器にも悪影響を与えます。その隙に邪気が入り込んで発病してしまう可能性もあるので、健やかなる精神を鍛える事も予防の1つになります。
飲食を調節する
これは今まで説明してきた漢方・薬膳の知識を用いて体に良い食事を作り、なおかつ適度な量を適切な時間に食べる事で健康へと向かいます。
食べ合わせの禁忌やその人に合った食事など考える事は多々ありますが、逆に言うとその人だけのオーダーメイドが出来る予防法にもなります。
体力を向上させる
こちらはシンプルに、体力をつけて予防する方法です。いくら健康に気を使った食生活を送っていたとしても、基本となる体が虚弱では話になりません。
体力、筋力が上がればその分内臓の方も活動効率が上がり、体質を改善してくれます。特殊な呼吸法で気を取り入れ、ゆっくりとした動きで筋持久力を高めつつ体の隅々まで気を送る太極拳も伝統的な方法の1つと考えられています。
補腎益精を中心とする
五臓の働きで説明した通り、腎は全身の陰陽を扱っており体の成長を担っています。つまり腎の気を増やすことは全身に使われるエネルギーを蓄える事と同時に、寿命を延ばすことにも繋がってきます。
疾病の予防
体の調子に関わらず発病の可能性がある伝染病などは上記の内容だけでなく、予防接種や鍼灸など外部から行う予防も場合によっては必要となります。
疾病に対する対応
疾病が起こった場合には高をくくらず、早期に診断・治療を終えて悪化を防ぐことが重要となります。ここで失敗すると病気はズルズルと続き、最悪命の危機に面する可能性も出てきます。
疾病の理解と対応
発病した場合、早期に診断することが鍵となってきます。邪気が内臓へと侵入する前に体表で払ってしまうことが望ましいです。なので常備薬やかかりつけの病院などを用意しておく必要があります。
関連臓腑の把握と対応
季節の風邪や体の特徴など、進行過程で浸食されやすい臓腑を把握しておきましょう。胃腸が弱くてそこに邪気が入り込んだにも拘らず、心臓に効く薬を飲んでも意味がありません。場合に合った対処を素早く行う事が大事です。
Lesson12-1 治療への考え方 正治・反治
中医学による治療の概念
治療には診断による整体観念と診断を踏まえて合った治療法を行う弁証論治をもって行われます。中医学の治療は『治病求本』を考えの基、成り立っています。これは治療する際に、病因・病機を分析して疾病の本質を見極め、合った治療法を行うという考え方です。
正治
『正治(せいち)』とは「体を冷やす症状には温める物を」、「汗腺が緩んでる場合には収斂作用のある物を」といったように、疾病の症候や性質に相反する治療法を行う事です。この正治は疾病の本質と現れた症候が一致している場合に行われます。ちなみに逆の症状が出る治療法をぶつけるので『逆治(ぎゃくち)』とも呼ばれます。
寒者熱之(かんしゃねっし)
寒性の邪気が原因になって体が冷える症状が現れます。そういった場合の治療法として温熱性の食薬や中薬を用いて、煎じた薬汁やお粥など温かい物を体に取り入れます。
熱者寒之(ねっしゃかんし)
こちらは寒者熱之と逆で、熱性の邪気によって起こった発熱を治める方法です。なので服用する薬や薬膳も寒涼性を持った物を冷やしていただきます。
虚者補之(きょしゃほし)
虚性の効果で気が少なくなり、虚弱症状が現れます。こういった場合の治療は気を養う滋養効果のある食薬や中薬を使用します。
実者瀉之(じっしゃしゃし)
実性の症状とは喘息やげっぷ、便秘など目に見える症状が多いです。こういった物は邪気が溜まって行き易く、進行が進むと他の臓器にまで毒素が染み込んでいきます。なので原因となる部分を早期に発見して、そこの邪気を払う必要があります。
反治
こちらの『反治(はんち)』は正治とは逆に、現れた症状の性質に順応する治療法を行います。一見症状を悪化させる方法に見えますが、ちゃんとした理由もあります。なお、症状に従う治療法なので別名は『従治』となります。
寒因寒用(かんいんかんよう)
こちらは寒性の症状に対して、寒性の食薬などで対処を行う方法です。しかしこの場合、症状の本質が熱性であることが条件になります。例に挙げますと、高熱が出た時に体が反応して冷やそうとしたところ、逆に寒気や冷えなどの症状が体を襲って、本来熱性の症状のはずが寒性に変わってしまうのです。このような事態の時に使われる治療法です。
熱因熱用(ねついんねつよう)
こちらも寒因寒用と同様、熱性の症状に熱性の食薬を与える対処法です。なお、症状の本質が寒性であるのが条件なのも変わりません。
塞因塞用(そくいんそくよう)
虚性の症状によって気の量が減ると、それに比例して循環する通路も狭くなって閉塞的になってきます。そうなると渋滞が起こって一部分に気が集中してしまい、胃もたれや腹膨など何かが溜まっているような症状が現れます。この場合、気を補う食薬などを用いて気の量を増やし、通路を押し広げて行きます。こうすることで十分な量の気が循環するようになり、症状の治療へと発展します。
通因通用(つういんつうよう)
こちらは逆に下痢などといった通路が開きっぱなしになる事で起こる症状の治療です。ただしこの場合の下痢は食べ過ぎによって起こる物なので、下剤を与えて溜まったものを吐き出します。毒素さえ取り出せば自然と収斂するので、症状を促進させる中薬が多いです。
Lesson12-2 治療への考え方 その他
治標と治本
『治標(ちひょう)』と『治本(ちほん)』という似た言葉があります。これらはどちらも治療を行う行為ではあるのですが、それまでの経緯に違いがあります。
まずは治標について説明します。
こちらの「標」という言葉は表に現れている症状のことを指しており、表面的な症状の治療を行う事です。急病の場合、患者が最も苦しんでいる症状を治める必要があります。つまり食べ過ぎや体を冷やしたなど、病状が直接的で急性の発病だった場合に用いられる治療法です。
治本は疾病の本質を見極めて行う治療のことです。積み重なってきた生活習慣によるツケが病状として現れた場合、一見どれが原因で発病したのかが分かりません。その為に慢性病の治療では何が原因で発症したのか、本質を調べて確実な方法で根本的から解決する必要があります。
ちなみに、慢性病を持ちながら急性の発作が現れた場合の治療法を『標本兼治(ひょうほんけんち)』と言います。たとえば元々慢性的な喘息を持っている患者には収まっている時期に補腎潤肺の治療を行い、風邪が発病した時にはいつもの補腎潤肺の治療を行いつつ解表薬を併用していただきます。
因時制宜(いんじせいぎ)
「時間に因る」と書かれているように、こちらの治療は時間を踏まえて行う物です。しかしその時間というのも食前、食後などといった簡単なものではなく、季節風などの気候変化、四季の移り変わり、太陽の昇落規律、月の満ち欠けなど、多くの自然法則を踏まえた上で行う治療になります。
因地制宜(いんちせいぎ)
こちらは患者の環境を踏まえて行われる治療です。ここで注意していただきたいのは、場所が変われば文化が変わるようにその人の生活習慣も十人十色に変わってくるのです。ここで考慮する要素の日光や水、土壌、その土地の気候などを頭に入れつつ、環境に合わせた治療を行います。
因人制宜(いんじんせいぎ)
これは患者に合わせた治療を行うという事です。聞いてみれば当たり前な事なのですが、患者の元々の体質であったり年齢によって疾病に対する反応は個々で変わってきます。もっと単純な話になりますと男女の間でもかかる病気、対処法は変わってきます。他にも気候や環境で変わって来る生活習慣や飲食の文化も人それぞれになってくるので、同じ疾病でも目に見える症状は異なります。なので治療を行う際には患者を『人間の体』として扱うのではなく、年齢や性別、生活習慣などを加味した『1人の患者』として扱って適切な治療を行わねばなりません。
Lesson13 治療原則
治療を行う際、厳守しなければならない基本原則があります。それを『治療原則』と呼びます。この治療原則には3種の原則があります。
『扶正』『袪邪』『調和』の3つです。臨床に当たる際にはこれらのどれかを選別したり、併用、または順序立てて行う方法などが用いられます。
扶正(ふせい)
扶正の「正」は正気を指しています。正の気を支える事で体質を強化して、気の働きを向上させる方法です。
疾病が起こるかどうかは正気と邪気の力量差が原因となってきます。正気が邪気に負けると発病してしまいますが、逆に正気を高めると抵抗力を強めることが出来ます。そうすることで肉体面の疾病を予防することが出来ます。また、肉体が万全であれば環境の変化に対する調整力も高めることが出来るので、精神的な疾病も予防することが出来ます。
このように扶正に心掛けて陰陽のバランスを整えることができれば、肉体的にも精神的にも疾病の予防が可能になるのです。このバランスを取る方法を『陰平陽秘(いんへいようひ)』と呼びます。
袪邪(きょじゃ)
袪邪とは体に巣食う邪気を払う事を言います。
疾病の原因は「六淫邪気」や「疫癘邪気」などといった自然界、つまり外部から邪気を取り込んだことによる『外因』と、ストレスなど精神面から体調を崩す『内因』、さらには飲食や生活習慣など多くの要因が積りに積もったことで引き起こされる『不内外因(ふないがいいん)』などが挙げられます。
つまり袪邪はこれらの原因を消滅させ、体を正常に戻す原則のことなのです。
調和
調和とは文字通り、体に起こった不調を正しい形に戻し、健康な状態へと戻すことです。精・気・血・津液が足りなければ滋養し、精神が危うい状態なら安静に過ごせるよう調節するなど、このように本来あるべき形へと戻すことを趣旨に置いています。
食生活が乱れた場合、旬の食材を使った料理を口にすることが最も簡単な調節とも言えます。
八法
現在、上記の治療原則を則って確定された治療法は20種類以上あります。その中でも最も古く、基礎となっている治療法が『八法』です。清時代の人物、程鐘齢によって記述された『医学心悟・医門八法』にまとめられており、『汗』『吐』『下』『和』『温』『清』『補』『消』の8つが挙げられます。中でも『補』は扶正、『和』は調和に当たり、他の六法は袪邪になります。
『汗法』は汗を通して、『吐法』は嘔吐などの方法を用いて口から、『下法』は便を通して邪気を外に吐き出す治療法です。『和法』は見ての通り調和を用いた治療法です。『温法』は温める事で寒邪を、『清法』は冷ますことで熱を払い飛ばす治療法になります。『補法』は足りない要素を補って健康へと導き、逆に『消法』は滞った邪気を取り除いて体の調子を整える方法です。
基本はこの八法に分かれて細分化していきますが、邪気の原因やどの部分が悪化しているかなど、様々な点から考慮する必要があるので自然と治療法が多くなっていきます。
Lesson14-1 養生を心掛けた予防 季節
季節に合わせた養生
季節の分け方には一般的な四季や「春分」「夏至」などといった1年を24等分に分ける「二十四節気」と言う物もあります。ですが漢方では夏を梅雨と晩夏の2つに分けて5つの季節として考えられています。季節にはそれぞれの特徴があり、それに助長されて発達する邪気があります。これを五行説に照らし合わせたものが『五悪』と呼ばれ、『風・熱・湿・燥・寒』の5種類に分かれてそれぞれの対処法を持っています。
春の養生
気温が暖かくなり、自然が芽吹いてくる季節の春は体も活動的になってきます。風に乗ってくる春の知らせは心も体も気分を軽くしてくれますが、邪気も風に乗ってやってきます。なので春に関わる五悪は『風邪(ふうじゃ)』となります。
春の季節は温かくなることで血の巡りが良くなり、肝の働きが高ぶり易く、胃腸の働きが弱り易い特徴が見られます。この隙をついて体に入り込むのが『風邪』なのですが、それを未然に防ぐための養生はちゃんとあります。
胃腸に優しい温かくさっぱりした料理を食し、甘味によって消化吸収を助けて脾の働きを良くします。酸味を控えて苦味を取る事で肝の高ぶりを抑えて余分な熱を取り除きます。こうすることで消化器官の働きを整え、春に見られる栄養失調から起こる口内炎や肌荒れも防いでくれます。
夏・梅雨の養生
夏には雨が降り注ぐことで活発になる『湿邪』と気温が上昇して起こる『熱邪』の2つが見られます。上記で2つを分けて紹介しましたが、湿気が増せば気温が上がるように、気温が上がれば湿度も増えるのでこの2つは密接な関係にあります。なので基本的に行う養生はどちらもさほど変わりません。
体の中に熱や湿気が溜まりやすく、苛立ちや不快感を覚えやすくなるのでその原因を吹き飛ばす必要があります。夏野菜や苦味のある食薬で熱を取り除き、水分代謝を上げることを第一に行います。その後、水分を出し過ぎないように酸味のある物で収斂作用を引き起こしつつ、補気類で気力を蓄えて正常な体にします。このような生活を送る事で、夏の養生が行えます。
秋の養生
秋は夏から一変して陰の気が充満していき、空気が乾燥してきます。この時の起こる邪気『燥邪』は肺に影響を与えやすく、呼吸器系を責めて来ます。乾燥を防ぐために必要となってくる要素は甘味、酸味、水分となってきて、これら全てを併せ持つ物が果物です。秋が旬の梨やブドウ、りんごといった果物に加え、カボチャやサツマイモも乾燥を和らげてくれます。
辛い物や刺激の強い物は体を痛めやすく、乾燥を助長させる可能性があるので控えたほうが良いです。夏に消耗した気力を補うために高麗人参やナツメを食べる事もお勧めします。なお、夏に比べると日没時間が早くなってくる事と冬に向けてのエネルギーを蓄える必要があるので、夜更かしは控えましょう。
冬の養生
冬は気温が下がり物静かになるので、暮らしも心穏やかにして気力・体力を蓄える生活が望ましいです。そしてこの季節では『寒邪』が体を襲うので、熱性・辛味の物で体を温めて気血の巡りを良くする必要があります。
他にも塩味の物で腎の働きを活発にしたり、牛肉やもち米などエネルギーになり易い物を摂取して春へのエネルギーを蓄える事も重要になります。食事もなるべく熱を通したものにしましょう。
Lesson14-2 養生を心掛けた予防 未病
未病への養生
ハッキリした病名はないけれど、疲れや冷えなど軽く調子が悪い状態を『未病』と呼びます。この時点ではまだ発病していないので、これを機に正しい養生を行えば未然に病気を防ぐことが出来ます。
疲れが取れない場合
現代社会で生きる中、多忙や不規則な生活を送る人はたくさんいるでしょう。そうなるとハッキリした原因はわからないが何となく体がだるい、寝ても疲れが取れないなど、心や体に溜まった疲れが形を変えて危険信号を出します。
そう言った場合すぐに生活習慣を変えることは難しいでしょうが、早めに就寝したりバランスの良い食事を取ったりするなど、取り組みやすい事から始めてみましょう。
漢方の面から見ると脾と腎が不調を起こすと疲れが溜まり易くなると言われています。
脾の失調が原因の場合、食欲が湧かなかったり下痢になるなど消化器系にダメージが生まれ、栄養失調になる可能性も出て来ます。元々虚弱体質な方は腎の方に問題があり、精力が足りず気力が十分に作成できないので疲れが発生します。
睡眠や休養を取り、胃腸や腎に効果をもたらす食事を取るようにしましょう。
胃腸には大根やオクラなどの消食類を用いた温かい食事で、消化を促すことが効果的です。詳しくはLesson4-8を見ていただけるとありがたいです。
腎に有効的な食薬は精を蓄えることが出来る補益類です。中でもキャベツやカリフラワーなどは帰経が腎に当たりますのでより高い効果が見られます。こちらも同じく、Lesson4-11に記載されています。
薬膳の例はLesson10に載っているので、参考にしてみてください。
冷えの解消
現在では冷房が発達し、夏でも冷えに悩まされる人が増えてきています。冷えの症状は人それぞれですが、漢方では大きく3つに分類されます。「血行が悪くて気を十分に巡らせることが出来ない」「元々全身を温める力が弱い」「お腹が弱くて腎を冷やし易く、陽の気をうまく作成できない」など、これらの理由が挙げられます。
多く細分化される冷え性ですが、基本的には温熱性の料理を食べたり血行を良くしたり、首や腰、足首を冷まさないようにする方法が用いられます。
肌への悩み
ホルモンバランスが崩れることでよく見られるニキビやしわ、乾燥、たるみなど見た目に直接関わる事なので肌への悩みはたくさんあります。漢方でも「肌は内臓の鏡」と呼ばれるほど肌は体の状態に影響されやすく、もし肌に不調が起こった際には外だけでなく内側への対処も必要です。
こういった問題を解消するには栄養と潤いを補充し、血液の流れを良好にすることが解決の糸口となります。
つまり潤いと関連がある肺、血液を作り出す脾、血液の巡りを良くする肝へ効果をもたらす食材を取り入れることで問題が解決します。あとは適度な運動、規則正しい生活が送れれば自然と肌は回復します。
心の安定性
ストレスの解消法は早い話、十分な睡眠をとる事です。
「早寝早起き病知らず」と言われるように、22時から2時を含んだ質の良い眠りは自律神経のバランスを整えてくれます。漢方の場合、自律神経は肝と直結しており肝の調子が精神に大きく関わってきます。肝を助ける食材はホウレンソウや小松菜といった緑の濃い野菜が挙げられます。
他にも胃もたれや下痢などで気分が優れない場合もありますが、こういう時は脾胃の方に問題があるので芋やカボチャなどの黄色くて甘いいも類を取るようにしましょう。
運動養生の大切さ
規則正しい生活、バランスの取れた食生活を送る事はもちろん大切なのですが、体にまつわる問題なのでまず体を鍛えることが重要となってきます。直接内臓を鍛えることが出来ないのでそれを生活習慣や食生活に任せていますが、栄養を巡らせる体力や代謝を良くするには体機能の質が物を言います。
と言っても何もアスリート並みに鍛える必要はなく、毎日少しでも無理なく体を動かすことで十分体の調子を整えてくれるのです。まずはラジオ体操やストレッチ、散歩など簡単なものから始めてみましょう。
Lesson14-3 養生を心掛けた予防 身体
人間はそれぞれ特徴を持った体を保有しています。ですが先天的な特徴だけでなく、年齢、性別によって引き起こされる特徴もあります。なので今回は年齢、性別に合わせた養生について説明していきます。
年齢に合わせた養生
漢方学では女性の体調変化は7年周期に起こり、男性は8年周期で起こります。節目の年になりますと今まで平気だったことが急に出来なくなったりと、変化が訪れるのでこれを機に心と体の在り方を見直す必要があります。ちなみに中国では「男性は気から生まれ、女性は血から生まれる」という言葉があります。男性は気力体力の消耗が激しく、女性は冷えや生理不順など血が原因で引き起こされる症状が多くあるのでこのような言葉が生まれました。
子供時代、十代までの間は成長過程にあるので内臓が未発達の状態です。思春期、成長期など体にも心にも大きく影響を与える時期なだけあって、この時期に養生を行うのは大切な事になってきます。出来る事なら五臓全てにバランスよく成長を促すことが最良ですが、実際それは難しいことです。なのでまずは消化器官を養うために脾を中心的に養生を行いましょう。
4周期目、30歳前後までの青年期は一般的に全盛期を迎えています。心も体も成長して多少の無茶ならすぐに体調を元に戻すことが出来る時期です。しかしここで無茶な生活習慣を続けていると次の周期以降、痛いしっぺ返しをくらう可能性が高くなってきます。酒やたばこの解禁、慣れない仕事での深夜残業など初めての体験が続き生活習慣が変化するかもしれませんが、出来る限り自然に逆らわない生活を続けるようにしましょう。
6周期目、中年期の頃になりますと体力の衰えが実感できるようになってきます。多くの人はこの時期に家庭を持つようになり、ストレスの原因が増える場合もあります。ストレスによって症状が引き起こされる臓器は肝になるので、肝を養うようにしましょう。
8周期頃を目安に老年期へと入っていきます。この時期になりますと人生の酸いも甘いも味わっているので、多少のことで精神はブレないようになります。しかし体の機能はどんどん低下していくので、少しでも体を動かす燃料を蓄えるために腎を養う事が長寿の秘訣となってきます。次点で重要になるのは栄養を運び込む脾の働きです。
男性の養生
男性の体調変化は8年周期で訪れます。
男性の体は『気』に左右されやすいので、基本的に腎と脾を養う事が大事になってきます。脾で栄養をエネルギーに変換して腎に溜め込む一連の動きが順調に行われれば、それが健康である証拠になります。
男性は「陽」に属しており、体に熱を持ちやすいのでより効率よく燃やすために筋肉質になっています。ですが時代の流れ、環境の変化から現在では「陰」の性質を持った男性が増えたなどとも言われています。「男性だから」とこだわらず、その人に合った治療法を選定しましょう。
女性の養生
女性は7周期毎に体調変化が行われます。
女性も腎を養うのは同じですが、『血』が健康を左右してくるので肝を養う必要もあります。腎ではエネルギーを貯蔵し、肝では血を貯蔵します。この2つを養う事で血の生成、循環を問題なく活動させることが出来ます。
女性は「陰」に属しており、気血の巡りが悪くなって冷えに襲われることが多々あります。これらの未病を防ぐために腎と肝がある下半身は温めつつ、熱で頭がのぼせないように冷やす『頭寒足熱(ずかんそくねつ)』に心掛けましょう。
終わりに
終わりに
これにて薬膳・漢方マイスター資格取得講座のカリキュラムは終了です。最後までお疲れ様でした。
これまで漢方・薬膳について様々な事を学習してきましたがこれらは漢方学のほんの少しで、まだまだ多くの知識があふれ返っています。今回紹介していなかった食材が患者に合う物だったり、一見合いそうな食材でも食べ合わせが禁忌に当たる物も出て来ます。
ですがこの学習を終えた皆さまなら下記の問題が簡単に解くことが出来るはずです。
・薬膳の言葉が最初に記載された書物は?
・気血水のそれぞれの役割は?
・陰陽に関係する消長、転化の違いには?
・五味の種類はどのようなものがあるか?
・老年期以降、どの五臓を中心的に養えばよいのか?
ここで学んだ知識は漢方学の土台となって、資格試験の際も大きく貢献してくれるはずです。
一通りの知識としては今回のカリキュラムで終了ですが、「もっと詳しく知りたい」「もっと体に良い食材を学びたい」など、学習意欲に駆られた方はもっと深くまで学ぶべきです。その意思があれば多くの食薬を自在に扱える日がきっと来ます。
今後の進め方について
今回のカリキュラムで多くの知識を身に付けたことでしょう。ですが知識を得ても、試験なり調理なり実践して生活に用いないと宝の持ち腐れになってしまいます。
なのでまずはカリキュラムで紹介した薬膳料理の中で興味を惹かれた物、おいしそうに感じた物を実際に作ってみましょう。初めは失敗するかもしれません。ですが上手に作れたり体の調子が良くなったりして結果が出てくると、次のステップへと繋がります。家族や友人、大切な人からの意見を聞いたり、SNSやブログに画像を公開して反応をもらうなどいろいろな活動を心掛けてみましょう。
実践を行う事で理解度を深め、さらに学習することで新たな知識を習得ができ、多くの問題を解くことが可能になります。そうすれば試験への合格がより確実にイメージできるはずです。
資格が取得できればこれまで個人で行っていたことが、仕事へと発展させることが可能になります。飲食店で勤務されている方なら新しいメニューの提案が出来ますし、今回の勉強を活かして新たに栄養士の資格を取得する勉強にも役立てます。
これらすべての要素をフルに活用して食べてくれる人の事を考え、その人の好み、体調、年齢などに合ったオリジナルの薬膳を作ってみましょう。
途中のコラムでもお伝えしたしたように、資格はこれからの活用が大切です。
また、より使える生きた知識にしていくためにも、関連する知識を学んでより深い理解をしていくことも必要になってきます。
セミナー講師&教室開催マスター特別講座で仕事への生かし方を学習して、実際に先生として活動を始めてみたり、
様々な関連資格を取得して理解を深め、より使える知識にして自分自身の生活を豊かにしたり、人にもっと上手に伝えられるようにしたりと、これからもっとたくさん学べることも、素敵なこともたくさんあります。
このカリキュラムを受講してくれた皆様が得られた知識を基に、健康に過ごしていただけることを願っています。